ニュース&コラム

緩和ケアが対処する4つの痛み正しい知識で医療者とのコミュニケーションを

2016年06月10日
緩和ケアが対処する4つの痛み

緩和ケアの対象となる「痛み」とは何か

緩和ケアとは
病気のもたらす「痛み」や「苦しみ」を軽減させることを目的とした治療アプローチ
であると、前回の記事(リンク)で説明しました。
 
 
しかし、「痛み」「苦しみ」といっても、様々な種類があります。
緩和ケアでは、どのような痛みに対し、どの程度まで対処してもらえるものなのでしょうか。
 
一般に「緩和ケアの対象となる痛み」というと、重篤で強い場合のものばかり連想しがちです。特にテレビの医療ドキュメンタリーなどでは「がん終末期の多臓器不全」や、「白血病による骨髄転移による頭蓋内出血」など、ショッキングで痛々しい場面ばかりが紹介されます。
 
しかし緩和ケアは、そのような重篤で激しい苦痛にのみ適応される治療ではありません。また、「肉体的な痛み」にのみ対処する治療でもありません。
 
本稿では、緩和ケアにおいて具体的に癒される「痛み」の種類についてご説明していきます。
 

なぜ「苦痛」の種類を知るべきなのか

 
ここの「痛み」の説明の前に、なぜこのように緩和ケアの対象となるペインを知っておくべきなのか、簡単にご説明します。
 
緩和ケアで対象となる苦痛は、極めて広範な範囲にわたります。
あらゆる肉体的苦痛はもちろん、精神的な部分にも深く入り込みます。
 
そういった緩和治療の中で起こってしまうのが
 
「痛みを我慢してしまう」
 
という問題です。
 
 
緩和ケアはまだまだ認知度が低く、正確な知識を持っている人は決して多くありません。
 
たとえば日本ホスピス・緩和ケア研究振興在財団による「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査」によれば、緩和ケアについて「よくしっている」と答えた人は全体のわずか13%でした。(リンク:http://www.hospat.org/research-304.html
 
「緩和ケアはどのような症状(苦痛)に対してケアをしてくれるのか」という知識がなければ、苦痛があってもそれがケアされる痛みだと理解できず、医療者に苦痛を伝えず我慢してしまうという現象が生じてしまいます。
 
現に10%の患者さんは、がん治療において痛みがあっても医療者にそれを伝えないという調査結果もあります。「我慢」は日本人の美徳のひとつかもしれませんが、終末期医療においては、QOL(人生の質)を引き下げることにも繋がりかねませんし、痛みから来る諸症状は効果的な治療の妨げにもなってしまいます。
 
緩和ケアにおいて、どのような痛みが治癒の対象になるのか。
医療とのすれ違いを避けるためにも、これらの知識が必要なのです。
 
 

その1「身体の痛み」

 
緩和ケアで第一に対処されるのは「身体的苦痛」です。
 
具体的には、特定の部位の痛みやかゆみ、しびれ・炎症などの疼痛や、息苦しさやだるさや倦怠感、不眠、食欲不振、嘔吐や吐き気、便秘、また体が動かないことも「身体的苦痛」と解釈されます。
 
これらの痛みは、病気そのものがもたらす場合も、薬の副作用がもたらす場合、また長期にわたる入院生活が原因になるパターンなど様々な原因で発生するため、同じ病気の患者であっても同一の苦痛を発するとは限りません。
 
身体的苦痛は、患者の生活や生きる望みを奪い、QOLを深刻に毀損すると考えられています。「夜眠れない」「身体を動かすと痛みや違和感がある」「ゆっくり座っているだけで身体のどこかが信号を発している」このような症状があれば、医療者に相談するべきでしょう。
 
現在の医療では、終末期における身体的苦痛のほとんどは緩和可能と言われています。「我慢」は禁物、医療とのコミュニケーションが重要です。
 
 

その2「心の痛み」

ふたつ目の痛みは「精神的苦痛」です。
 
がんなどの重大性の高い病気に罹ること、そしてそれを告知されることは、患者とって大きな苦痛です。命の不安、将来に対する不安、死への恐怖、そういった様々な負の感情を刺激されます。
 
がんの場合を例として挙げましょう。がん告知を受けた後の患者の心の反応は、通常下の図のようになると言われています。
 
 
(引用:小川朝生,内富庸介編(2010).これだけは知っておきたいがん医療における心のケア:精神腫瘍学ポケットガイド.東京,創造出版,9)
 
衝撃・否認・絶望・怒り、
そういた感情により日常生活への適応力が著しく低下してしまいます。
 
これらの症状は時間と共に回復する傾向にありますが、がんという現実を飲み込むのに長い時間が必要になる患者も数多く存在します。
 
特に終末期の患者においては、希死念慮を経験する場合も多々あり、予防的観点からもQOL(人生の質)の観点からも早めのケアが必要になってくるでしょう。
 
 

その3「社会的な痛み」

みっつ目の痛みは「社会的苦痛」です。
 
病気を抱えながら生きることは、経済的・社会的な痛みを生じさせます。
 
例えば直接的には治療費の負担であったり、今までの仕事を続けることが難しくなってしまうことであったり、家族の負担であったり、相続関係の悩みであったり、健康な時とは違う、様々な悩みが出てきます。
 
経済面や人間関係についての悩みが医療で対応される「痛み」というのはちょっと飲み込みにくいかもしれません。しかし緩和ケアの理念は「全人的苦痛(トータルペイン)」に対処することです。
 
例えば相続や仕事などの社会的苦痛が心理的苦痛に繋がり、それが身体的痛痒を生みだしてしまうという場合もあります。これらの社会的痛みも緩和ケアの射程のひとつなのです。
 
 

その4「霊的痛み」

よっつ目、最期の痛みが「スピリチュアルペイン」です。
これは日本語では霊的痛み、魂の痛みなどと訳されています。
 
「スピリチュアル」などと言うとなんだか変な感じがしますが、れっきとした医療用語です。
 
終末期において、患者はしばしば根源的な問いに行き当たります。
 
「自分はなぜ生きているのか」
「自分の人生の意味は何か」
「なぜ自分が死ななければならないのか」
「死んだあとはどうなるのか」
 
こういった問いは、人生そのものに対する苦痛、それを緩和ケアでは「スピリチュアルペイン(魂の痛み)」と表現します。
 
僧侶や牧師などの宗教専門家、カウンセラー、また病院であれば臨床宗教師という専門家もいます。こういった人たちと共に医療は「魂の痛み」にも取り組んでいるのです。
 
 

まとめ

・緩和ケアとは、病気のもたらす「痛み」や「苦しみ」を軽減させることを目的とした治療アプローチです
 
・緩和ケアでは、患者の痛みを
「身体的苦痛」
「心理的苦痛」
「社会的苦痛」
「霊的苦痛」
の4つからなる、全人的苦痛(トータルペイン)と考えています。
 
・苦痛を我慢せず適切にケアすることが、治療の上でも重要です
用語タグ 緩和ケア
この記事を読んで良かったですか?
良かった 良かった

3

緩和ケアが対処する4つの痛み

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

緩和ケアが対処する4つの痛み

緩和ケアが対処する4つの痛み

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

緩和ケアが対処する4つの痛み

大切なひとと考える『これからハンドブック』

pagetop