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寝食を忘れて働くな!訪看ステーションの働き方革命 ─「楓の風」インタビューvol.2

Profile

楓の風
野島 あけみ業界人

「楓の風」グループ副代表。 保健師 看護学修士 経営学修士(MBA)

訪看ステーションの「働き方」革命

24時間365日体制で在宅ホスピス・ケアを提供する訪問看護ステーション「楓の風」。

「家で看取れる社会の実現を」という理念を掲げる「楓の風」は、訪問看護に関して独自の哲学と理念を持っていた。
(参考記事:在宅ケアの現場から「人間の尊厳」を考える ~「楓の風」インタビューvol.1 ~

 続く2記事目となる本稿では、優れた訪問看護を実現するための「働き方」改革について話を伺った。

 

価値を実現するために、ワークスタイルを見直していく。

編集部
前回は、訪問看護の提供する価値として「生き方を決める上での医療的なガイダンス」「各医療機関との橋渡し」などがあるというお話を伺いました。
また、患者さんの自尊感情をいかに高めていくかが何よりも重大な課題である、というお話も伺わせていただきました。

すばらしいゴール設定だな、と思ったのですが、そのような「価値」を提供し続けるためには、非常に多くの人的コストがかかってくるのではないか、とも思います。すると現場の一人一人の方にかかる負荷というのは、やはり重くなってしまわれないでしょうか?その点についてはどのように見ていらっしゃいますか。

 

「楓の風」副代表 野島あけみ氏
確かに、私たちが実現しようとする価値はひとの手を介してしか実現できない価値です。
しかし、それをいわゆる「ハードワーク」で達成するのは、大きな無理があるのではないかと考えています。

在宅医療の世界には、黒澤明の映画「赤ひげ」の登場人物のような「寝食を忘れて医療に打ち込む」といった方が多くいらっしゃいます。これは20年くらい前、制度がはじまった頃からの人たちに多く、業界では「第一世代」と呼ばれています。「この世代の努力があったからこそ今がある」、そのこと自体は決して忘れてはいけないことです。しかし、他方で「このようなワークスタイルを今後も維持していくことには大きな困難がある」とも思っています。

それは何も「そのような働き方はどうなのか」とか「ワークライフバランスがどうなのか」とか、そういう話ではありません。現実的に、「増えていく高齢者を、減っていく生産年齢で支えていく」という構造が避けられない以上、ハードワークで生産性を上げる取り組みにはどうしても限界があるということです。

例えばかつては訪問診療機関も少なかったし、訪問看護ステーションも足りなかった。そういう中でがんばることを望まなくてもがんばらなければいけなかった。がむしゃらにやらざるを得なかった人たちがいたのも事実だとは思います。

ですが、いまはそういった数の問題は大きく変わりました。例えば町田周辺のこの地域であれば、訪問診療のお医者さんの方から「患者さんを紹介してください」と言ってこられるし、私たちも「どこかに患者さんいたら紹介してください」と営業に回る。そういったことが当たり前になるくらいに状況は変わってきています。

第一世代の壮絶な努力は決して忘れてはいけない記憶ですが、その時代の働き方を盲目的に踏襲するのは少し違うだろう、そのような意識からワークスタイルの見直しについて楓の風では様々な手法を取り入れています。

また、先ほどお話したように、「寝食を忘れて…」式の看護では、患者さんの自尊感情を育めないという課題もあります。患者さんに自分自身の価値を認めてもらうためには、「本人がやれることは本人がやる」とした方がいい。「一生懸命面倒を看る」だけでは、患者さんはやがて「看護師さん、お願いします」という流れになってしまう。

ワークスタイルを見直すことは、看護師のためでもあり、また患者さんのためでもある。そういう風に考えています。

 

「無理のない働き方」を実現するための、「楓の風」式マネジメント

 編集部
「寝食を忘れて…」的なワークスタイルから脱却し、利用者の方の尊厳や自己効力感を中心に据えた関わり方を目指す。この方法性は画期的なものだと思います。そういった働き方を一人一人の看護師さんが現場で実践するために、「楓の風」で行っている工夫を教えてください。

 

野島氏
教育には力をいれています。入職時には座学研修というものを1週間程度しっかり行います。そのあとOJTを1か月ぐらい。このあたりをシステムとして整えた形で実践し、それを評価して来年のプログラムをどうするかということで、PDCAを回す形で取り組んでいます。

あとは、仕事そのものから学べるようにしないといけないと考えています。教科書に出ていることはほんの一部なのです。そこだけでいくら自分で努力して勉強しても、訪問看護の場合はなかなか実際の現場で通用するスキルなりナレッジなりは向上していかない。なので、訪問から帰ってきた後に事務所のみんなで行うディスカッションを、とても大事にしています。

看護師さんって暗黙知をたくさん持っているのです。それを形式知としてアウトプットする、そして他の人の形式知と合わせて考える。「その点は、この本にはこういうふうに出ていたよ」「こないだの事例検討会ではこんな話を聞いたよ」とか、そういった客観性があると思われること、発表されている様々なことも合わせて考える。

そんなディスカッションやグループでの検討をした上で、「じゃ、明日はこうしてみよう」「来月はこうしてみよう」といったような新しいクリエイティブな要素を含んだ計画を立て、それを担当者本人が腹落ちした上で、次の訪問に反映させていく…といった構造になるよう工夫しています。うちではそれはSECIモデル※の実践と位置付けています。
【※編注】SECIモデルとは、野中郁次郎氏が提案した知識創造のモデル。「暗黙知」と「形式知」のスパイラルを創り出す知識移転のプロセスを表したもの。

SECIモデルを実践していきますと、実際の訪問看護のすべてのプロセスが「あることを学んで、そのままやる」のではなく「あることを学んで実践し、その実践経験から(ときには他者との共同を経て)何かを生み出す」といったプロセスになると、常に皆さんに伝えています。皆さんもそれを意識しながら日々の実践に取り組んでくれています。

そして、これをうまく回すためのひとつが、私たちが円卓発想と呼ぶホスピタリティマネジメントの考え方です。まず採用の段階、つまり会社説明会の時点で円卓発想というものを伝えています。皆がフラットな関係で、つまりヒエラルキーがない中で、相互にダイレクトなコミュニケーションをしましょう、といった考え方を基本的な教育の中で重視して取り込んでいます。

たとえば会議の場で「何かありました?」とまとめ役に問われて「ありません」って参加者の皆さんは答える。でも会議室を出た途端、みんなが廊下で話しだす…。こういうのはありがちなシチュエーションです。これを防ぐ風土づくりの核になるのが円卓発想です。

訪問看護の質を担保するためのSECIモデルを支えるひとつが、円卓発想。こういったことを、入職前の会社説明会でも伝えますし、入職時研修でも伝え続けます。「ここに座るためにはそれなりの資格がいる」ということを様々な角度から説明して分かってもらう。「廊下に出てしゃべってはいけない」ということ。「『あのとき、ああ、変だなと思ったのに…』と、あとから言ってはいけない」ということ。

こういったことを様々な形で説明した上で、ここに入ると決めていただいています。

 

編集部
なるほど、SECIモデルというとナレッジマネジメントと呼ばれる企業マネジメントの分野の手法ですが、そういった最新のマネジメント方法を取り入れつつ、現場の看護師さんひとりひとりのレベルを上げていく。暗黙知を形式知に落としていく、ということですね。

 

野島氏
そうです。そしてこのSECIモデルをしっかりと回すために、私たちのステーションは原則として全員常勤なのです。どうしても…といった理由で非常勤の方が、80人のうち4、5人いらっしゃいます。それでも、朝と夕の時間はそういった方々にも集まってもらっています。じゃないとこれは回らないのです。「決まったことを、やってきました」で終わってしまう。こういったやり方でこのSECIモデルをとても大切にしています。

現場での実践があってそれを共有する。でも共有するだけで終わってはだめで、そこから新たなケアを生み出すという発想。

そして、毎日同じ3人で話していてもなかなか盛り上がらないということで、ときには隣の楓の風のステーション、その隣のステーションと…。こうなるとなおさら皆が集まることが出来る時間は設定できないので、テレビ会議でつながってのディスカッションもする。そういうわけでITも入れていますし、テレビ会議も入れています。

けれど、これらITやテレビ会議は何のためか…というと、1件でも多く訪問に行けるようにするためではなくて、今の訪問数でいいからこのSECIモデルによる学びをきちんと行う時間を確保するためなのです。
そして、この時間が看護師にとっては承認の時間にもなるわけです。
「あのときの実践は、これはこれでよかったんだ」という…。

こういった様々な施策を通して、効果的に、また無理のない働き方を実現できるよう、工夫をこらしながらより良いケアを目指して進んでいく。これが現在の形です。

更新日:2017年03月24日


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