医療・介護から看取りを支える人たちのインタビュー ”ひと”

インタビュー“ひと”
看取りを支える人たち - Human Inteview -

密な連携で、本人が寿命をまっとうできる看取りを

Profile

訪問看護ステーションあかし
加藤希看護師

「訪問看護ステーションあかし」所長、看護師、ケアマネージャー

在宅看取り率60%の秘密

日本では1950年代から病院での死亡率が急速に増え、1976年に自宅死亡率を初めて上回った。2012年には病院での死亡率は全体の78.6%。ピークの82.4%(2005年)からは下がり続けているものの、アメリカ56.0%、オランダ35.5%等の欧米諸国と比べるとまだまだ多い。また、全国訪問看護事業協会が平成16年に行った調査では、訪問看護利用者の在宅看取り率は15%強であった。

一方、2005年に(財)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が行ったホスピス・緩和ケアに関する意識調査では、「自宅で最期を過ごしたい」と答えた人は83.3%。なお「自宅では過ごしたくない」と答えた人は9.0%のみだった。

多くの人が望むにもかかわらずなかなか普及が進まない在宅看取り。そこにはどのような課題が存在するのか。

 

今回取材を行った加藤氏が所長を務める東京中央区の「訪問看護ステーションあかし」の在宅看取り率は約60%。この高い在宅看取り率の背景を探ることでなにが見えてくるのか。病院勤務を経て訪問看護師の世界に入り、在宅看取りケアの最終目標を「短すぎず長すぎない、ご本人の寿命をまっとうしていただくこと」と語る加藤所長に話をきいた。

病院での終末期医療への社会の見方の変化

公益社団法人 中央区医師会は、1998年に「中央区医師会月島訪問看護ステーション」を発足。2000年の介護保険制度開始とともに24時間体制を整え、2004年の移転に伴い、名称を「中央区医師会訪問看護ステーションあかし」に変更し現在に至る。東京都中央区を中心に、現在17名の看護師(うち2名はケアマネジャーを兼任)、ケアマネジャー専任1名、事務2名の20名が勤務している。

 

加藤氏が同ステーションで働き始めたのは約14年前。現在、同ステーションでの在宅看取りは、1年に約60人。全国に約8,200カ所ある訪問看護ステーションで年60件以上の看取りを行っているのは1%にも満たないことからみて、その数の多さが分かるが、「当時は自宅での看取りは本当に少なかった」と話す。

 

「当時も、本人自身は本音では『最期まで家にいたい』と思っている方が多くいらっしゃいました。でもそのころは、本人自身はそう思っていてもそういった希望が受けとめられにくい時代でしたので、その思いを伝えようとされない方も多かったのです。まずは家族が『それは無理だろう』と言いますし、その周りで支えているケアマネやヘルパー、その他の多職種の人たちも『無理だろう』という意識で支援にあたっていました。自宅で人が亡くなるというのを経験したことのある人が少なかったのが大きかったと思います。また、自分のことはともかく家族のことについては、少しの時間でも長く生きていてほしい、さまざまな治療をしてでも長く生きてほしいという考えの人たちが多かったという時代背景がありました」

「昔は自宅で亡くなる方が多かった。でも医療の急速な進歩とともにそれが病院へとシフトしていきました。病院では、過剰な量の点滴や胃ろうなど、1分1秒でも延命するためのさまざまな治療が施される場合が多い。もちろんそれらの措置が有効な方もいらっしゃいますが、疑問を持ってしまう延命措置も多く行われているのが実際です」

 

日本老年医学会が2011年に看護師を対象に行った調査がある。

“療養病床に入院中の女性Aさん(85歳)は、進行したアルツハイマー型認知症患者で、意思疎通できず、寝たきりで全介助です。

少し前から、食べる量が減っていましたが、嚥下リハビリやソフト食など食べやすい工夫と食事介助をして、なんとか経口で食事をとってきました。しかし、これまでも何回か誤嚥性肺炎を起こしており、先週も誤嚥性肺炎を起こしました。肺炎は軽快したものの、医療チームは口から食べるのを再開するのは困難と判断しています。

現在、手足の静脈から点滴で栄養を補給していますが、栄養状態は徐々に悪化してきています。

人工栄養・水分補給に関するAさん自身の事前の意思表示はありません。夫は5年前に亡くなり、ほかの家族の意向も不明です“

 

上記の事例に対し、①Aさんに医療者としてどのような人工水分・栄養補給の方法を選ぶことが適切か、②自分がAさんの立場になった場合にどのような治療を望むか、を看護師に尋ねた。

すると、「胃ろう」については、①25.6%、②9.3%。「経鼻経管栄養法」では①23.0%、②1.1%。「死んでもよいから経口摂取を継続」が②30.4%(①は尋ねていない)、と大きな差が見られた。

また、医師に対して自分の親が患者の場合に胃ろう栄養法による延命をどのようにするかを尋ねた調査では次のような声もある(会田薫子『延命医療と臨床現場』東京大学出版会)。

“医療者っていうのは悲惨な例をいっぱい見ているじゃないですか、延命措置をしたけどどうなったか、ということを。だから、そういう意味では無理したくないなと思います。一般の人の場合は延命したらどうなるかがあんまり見えていないから、親にはできるかぎりやってほしいという人もいると思いますが、医療者は見ていますから、そんなねえ。言葉しゃべれないのに無理やり内視鏡入れられて、胃ろうやられて、嫌でしょうね”

日本では、胃ろうの造設者は40万人とも言われる。もちろん患者にとって有効なケースもあるが、医療者が自分に対してはそれを望まない治療であっても患者には行われている状況と、そして医療者と患者や家族の密なコミュニケーションが取れてないまま治療が行われている可能性がうかがえる。

支える側の「怖さ」をとる

本人の意思を確認しコミュニケーションを密にとることと同時に重視してきたことは、様々な事業所の様々な専門職で構成される「地域としてのチーム作り」だと話す。

14年前加藤氏が訪問看護に関わり始めた当初、加藤氏ら看護師が在宅で亡くなりたいという本人の想いを実現しようとする中で、ケアマネやヘルパーの方に「在宅での看取りまでに関わっていくことに強い不安があることが分かった」という。

「ご本人が家にいたいとおっしゃれば、私たち看護師等の医療側はそれに添うために全力投球しようとするのですけれど、連携する他の多職種の方たちがすごく引いているのを感じました。」「『こういうときは私たちを呼んでくださいね』と伝えていても救急車を呼ばれてしまったり、『家で最期を迎えたいとおっしゃっているので、○○と●●をしましょう』と調整しようとしても『いやいや家では無理ですよ』と言われてしまったり…」

「利用者さんのお気持ちに寄り添いそれを実現することは、私たち医療者だけではできない。チーム、地域の力がないとできないのだ、ということを身に染みて感じさせられました」

 

彼らのそうした姿勢の背景には、在宅看取りを経験したことがないことに起因する「怖さ」があると考えた加藤氏らは、その怖さの理由を共に考えるよう努力した。

「お家でも看取れるのですということをすごく語りましたし、実践の場で一緒に経験してもらったりしました。利用者やご家族の想いを引き出すのと同時に、ヘルパーさんたちがなぜ怖いと思うのかを一緒に考えて解決していくようにしました」

たとえば、連携する事業所のヘルパーに、少しでも不安に思う事があれば加藤氏らが持ち歩く緊急用の電話端末に電話してきてほしいと伝える。「何かあったときに、いつでも加藤氏らに電話をしていいのだ」とすることで、彼女たちが感じる怖さがだんだんと減っていきやすいからだ。

また、ヘルパーが利用者に拘縮(※関節が可動域制限を起こしている状態)があって体位変換がうまくできずに困っていれば、ケアの方法を写真に撮影して壁に貼ってといった工夫の他、時間を調整して直接現場でケアの方法について教えるといったこともしていった。

 

「たとえば、訪問した際に確認する利用者さんのお口が不衛生なままであるといったことは、ケアが滞っている証拠です。そういった場合には、何が問題なのか、ほかの職種の人たちがどこに困っているのかをアセスメントして解決していく。それが利用者さんの生活に返ってくるので」

 

ケアプランの作成や更新時等に、ケアマネが招集し、関連するサービス事業者、本人や家族等の関係者で利用者の情報を共有し、ケアプランの内容を確認する「サービス担当者会議」というものがある。忙しい場合にはメールやファックスで済ませてしまう専門職も多い中、加藤氏のステーションでは実際の出席を重視し、訪問看護師の誰かが参加できるよう工夫している。

「うちでは約230人患者さんがいらっしゃる。年に2,3回会議が必要な方もいらっしゃるので、1年に230回以上の会議に参加していることになります。そこで、今後予測される利用者さんの状態の変化をある程度お伝えして、それに対しての医療の立場からの目標設定も伝えるようにしています。」

「たとえば、今までの訪問だったら1回につき200mlの水分をヘルパーさんに飲ませてもらっていたけれど、今は飲ませるというよりは、本人が気持ちよく飲んでもらうことに目標をシフトしてもらいたいと伝えています。なぜかというと、無理強いすることで誤嚥を起こしてしまう可能性もあるから。誤嚥を起こすとどんなに苦しいのかといったことも伝えると同時に細かいケアの提案も行っています」

 

専門職の相互理解と顔の見える関係づくり

「訪問看護師をしていて、一番悲しいと思うのは、ご本人たちは病院に行きたくなくてお家でと思っているのに、その意思と違うところで周りが動いてしまうことです。たとえば、あわてて救急車を呼んでしまったとか。」

「そうならないために、ポイントポイントで確認をして、かかわる人たちみんなを調整していく、変化、変化にちゃんと周りがついてこられているかを確認することが重要だと思っています」

 

また、課題の一つに病院と地域との連携を挙げる。先日、加藤氏は、ある病院で、40代の白血病患者を自宅で看取った症例を発表した。患者が白血病、40代という年齢にもかかわらず自宅で看取ったということに、医師や看護師らは驚いていたという。

「皆さん『え、そこまで在宅でできるの?』という反応でした。白血病ですから輸血も必要です。ですが、今は在宅で輸血もできますし、呼吸器の管理など、なんでも在宅でできます。」

「患者さんが在宅生活を望めば、在宅の医療チームは様々な連携を駆使して体制を整えるように努力します。『この患者さんは、在宅生活には難しい』という医療者側の思い込みではなく、患者さんの思いに耳を傾け、どうしたら在宅で生活できるのかを、病院等の医療者と共に語り考える必要があると思います。この患者さんも病院からは『病院でないと無理』と言われていた方でした。それでも、訪問看護が入り調整を重ねる事で、ご本人の望み通りご自宅で最期まで生活する事ができました」

 

病院でも、退院後の患者の医療のため地域の診療所や病院など多くの医療機関との連携を推進するために「連携室」が設けられているところが増えた。介護保険上も退院カンファレンスを行うことでケアマネに報酬の加算がつき、訪問看護事業所にも主治医などと共同して在宅療養上必要な指導を行うなどした場合に加算がある。このような形で病院と地域の連携は、体制として、また制度的にも進みつつある。

しかし、上記のような経験を通して、もっともっと自分たちが在宅医療の実情やその医療レベルを情報発信していく必要があると感じているという。

 

2013年の「社会保障制度改革国民会議」の報告書では、死について下記のように言及している。なお、国の審議会が死について触れたのは初めてである。

“死生観・価値観の多様化も進む中、医療の在り方は、医療提供者の側だけでなく、医療を受ける国民の側がどう考え、何を求めるかが大きな要素。死すべき運命にある人間の尊厳ある死を視野に入れたQOD(※Quality of Death=死の質)も射程に入れて、人生の最終段階における医療の在り方について、国民的な合意を形成していくことが重要”

 

「病院信仰」を抜け出し、自分自身でどう生きたいか、どう死にたいか、を考える際、その地域に加藤氏らのような身近な専門職の支えがあるかどうかは重要なポイントだ。医療の立場から介護や福祉といった様々な専門職を巻き込んで地域包括ケアの理念を現実のものにしていく看護師の活躍は、日本全国それぞれの地域で今求められていることなのである。

更新日:2016年05月13日


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用語タグ 緩和ケア
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