医療・介護から看取りを支える人たちのインタビュー ”ひと”

インタビュー“ひと”
看取りを支える人たち - Human Inteview -

人を看取るという仕事。僕はこの仕事に誇りを持っています【3】

Profile

株式会社サンハート
戸倉 英人施設長

介護付有料老人ホーム「SILVER SUPPORT 星にねがいを」施設長

スウェーデンでの実習が残したもの

◆戸倉

僕もこの仕事15年ぐらいやっていますけど、本当に最初は施設的な考え方だったし、亡くなるということが怖くてしょうがなかったのです。

けれど、4年くらい前にスウェーデンで実習してきて…。スウェーデンって延命とかそういう考え方がまったくないんです。「絶対、最終的に人は死ぬものだ」っていう、「それを前提にそれまでを楽しもう」っていう考えなので。

それがきっかけとなって、いつの間にか「人が亡くなる」ってことに僕の中であまり恐怖とかがなくなって、「その方が望んでいることをやって、それで最期を迎えられれば幸せな最期なのかな」っていったものに考えが少し変わっていったように思います。それまでは、「なにより危険は犯さずに…」という感覚はあったのですけれど、今はそうではないですね。本当に思いのまま。そこでスタッフが怖がっているなら「いいよ、やらなくていいよ。僕がやるよ」って言ってあげられるし。

 

なので、今お風呂で亡くなられてしまったとしても「最期に入れられたのならいいかな」って思うようになりました。

昔の僕だったらそんなこと考えないですよ。「今お風呂入れて何かあったらどうすんの?」って、たぶんスタッフを怒っていたと思うのです。けど、今は「いいんじゃない?」「入れてあげなよ」って言っています。

自分がその方だったらそうしたいな、そうされたいなって思いますし。「最期にやりたいことしてそれでたまたま亡くなるきっかけがそれだとしても、それならそれでいい」と思えるな…と。

 

編集部:

スウェーデンにはどのぐらいの期間いらっしゃったのですか?

 

◆戸倉

2週間はいなかった。10日ぐらいでした。

 

編集部:

10日の間に、それほど考えが変わっていくものなのでしょうか?

 

◆戸倉

10日間で、ものすごく巡るんですよ。すごい施設をいっぱい回って、びっちり朝から夜まで研修が10日間続くのです。その前に日本で3カ月ぐらいスウェーデンの緩和ケアっていうのをかなり学んでからスウェーデンに渡ります。この事前に学ぶ部分も含めてその3カ月ちょっとの間でがらっと変わりましたね。僕の場合は。

 

編集部:

施設長の場合はそういったご経験をされてご自分の中でそういうスタイルを掘り下げていったと思うのですけれども、ほかのスタッフの方はなかなかそういう経験はされていないですよね?

 

◆戸倉

していないですけれど、結構僕がそういう考えになったので、「いいんだ」って思ってくれているのじゃないでしょうか? 逆に、スタッフからも言ってきてくれる。「『お風呂入りたい』っておっしゃっているのですけど、いいですか」って。「いいんじゃない? 入れてあげなよ」って。「何かあっても全然大丈夫、何かあってもいいんだから」って。

 

ただ、その分、ご家族とはきっちりと話します。じゃないとリスクは大きいです。でも、何かあっても訴えられるような関係性ではないと思っています。きちっとコミュニケーションを取れているつもりでいます。

 

編集部:

こちらの施設は一つの施設でもあるわけですが、株式会社という法人の一部門でもあるといった意味で、より上位のマネジメントとの間での意思決定の違いみたいな、判断の違いみたいな問題はどうなのでしょうか? 例えば、会長との考え方の違いとか。

 

◆戸倉

もちろん意見が食い違う部分とかもたまにはあるかもしれないのですけれども、ほとんど一緒ですね。考え方は。

というか、かなり任せてくれているので。「やりたいようにやらせてもらえる」というか。ただ、そういったリスクという部分は自分で考えているので、会長になにか聞かれても「こうこうこうでこういうかたちで対応すれば大丈夫ですから、やらせてください」といった流れでお願いしています。

そうするとほとんど「やってみなさい」って言ってくれるんですよ。会長もスウェーデンで勉強していて、コスモスの遠山(施設長)もスウェーデンで勉強しているんです。だから三人がたぶん同じ考え、価値観なんじゃないかなって思っています。

 

編集部:

上の方がそういうふうに受け止めてくれるっていうのは、現場のスタッフさんにとってはすごくありがたいですよね。自分が板挟みにならなくて済むっていう。

そうじゃない施設のスタッフの方って「本当に大変だな」っていつも実は思っているんですよ。特に、心があるというかそういう自分の中できちんと信念を持っている方は、ご自分がリスクも決断も矛盾も抱えてしまったりしていて、だけど味方がいなかったりとか…非常につらいなって。

 

◆戸倉

僕も現場上がりなので…、夜勤をかなりやっていたのですね。僕が夜勤している日によく入居者の誰かが亡くなるんです。そういったことがしばらく続いたときは、さすがに僕「死に神かな」って思った時期もあったし…。でもうちの会長は「あなたを選んでいるのよ」って言ってくれたんですね。「あなたを選んで、あなたの日だから安心して旅立っているのよ」って。「そうなんだな」と思って、そこは割り切れました。それが僕の後輩とか今のスタッフさんたちがそうなったときに、同じこと言ってあげられる原体験になっていると思います。「良かったね、選んでくれたんだよ、いい経験だね」って。

 

編集部:

ところで、研修というのがとても重要なきっかけになっているのですね。

 

◆戸倉

そもそも「介護する」ということは何なのか、人が生きることとか、生と死というか、本当に考えさせられますね。認知症の研修もあるのですけど、「認知症の方が辿っていく過程、その先にある最期をきちっと考える」という。あれはすごい研修だったと思います。

 

編集部:

私どももメディアとして、多少欧州の、特に北欧の方の情報が入ってくるのですけど、今の日本とは「死生観がわりと違うな」というのを感じるんですよ。日本の場合ですと、ある意味バイタル至上主義というか、「医学の粋を尽くしてでも最期まで肉体的にいかに生かすか」っていうのが目指すべきことであって、それを途中でやめるっていうのは敗北というか「不完全な終わり方だ」といったような。

 

◆戸倉

中にはいらっしゃるんです。「もう最後まで、何としてでも生かしてください」っておっしゃるご家族もいるのです。でも、それはそれでそういう考え方だし、ご本人が「最期まで生きたい」って、「どんな手を尽くしてでも生きたい」って思っていたことが分かれば、それに沿って頑張りますけれど。

ただ最近は減ってきました。本当に減ってきました。そういう方。

うちの施設で52名入居されていてそういう延命を望んでおられる方は2~3人でしょうか。1割もいかない。

そういった方の場合には、何かあると「すぐ医療への連絡」「すぐ救急車」って形での対応となっています。でもこういった、今話したようなお話をご家族といたしますと、「そうですね、苦しめるだけですね」などといったお考えに変わってくださったりとかするのですね。「こういった状況で、病院に行っても、たぶん医師は何もできることはないですよ」って。「縛られて、管につながれて、食べたいものも食べられないでそのまま最期を迎えるのと、ここで自由に最期を迎えるのでどっちがいいですか」といった話しをすると、皆さん「やっぱりこちらで」って仰ってくださいますね。

施設でのお別れ会について

編集部:

ご記憶に残っている中で「これはいいかたち、いい看取りのサポートができたな」っていうような、思い出になっている事例というのはなにかありますか?

 

◆戸倉

看取りの事例ですか…。いっぱいありすぎて。

 

編集部:

夢叶う社さんですと、例の滝の前を皆さんでお送りするといったお別れ会を開かれているようですが、こちらでは何かそういった儀式的なものは?

 

◆戸倉

ここも施設の中でお別れ会をやります。儀礼といった大げさなものではないですが…。この部屋でやります。

スタッフやご家族だけではなくて、ほかの入居の方も参加されます。

デイサービスから入居になっている方なんかは、ここに通ってこられるデイサービスの利用者さんも一緒にお見送りに参加していただいたりとか。もう一緒にマージャンやられていた方が入居して亡くなられるという方もいるので。(笑)

 

編集部:

もう一つの村みたいな状況ですね。ある意味。

 

◆戸倉

昔はうちも、入居者さんに、一緒に入られていた方が亡くなったことを伝えなかった時代があったのです。当時はどこの介護施設もそうでした。

けれど、うちの会長が言ったのです。「すごい人生を経験してきて、戦争を乗り越えてきて、周りで人が亡くなるぐらい何てことない」と。「なんでお見送りさせてあげないの」って言ったのです。「どんなに認知症になった人でも、一緒に部屋にいた方をお見送りしてあげたいって思うでしょ?」って。

「確かにそうだな」と思って。「なんで今まで伝えなかったのだろう」と思って。

 

編集部:

その方向転換っていうか、会長がそういうふうにおっしゃられて、やり方変えたのはいつ頃なのですか?

 

◆戸倉

けっこう前ですね。

そこから「入居者さんにも伝えて一緒にお別れ会に出てもらおう」って。

「同じフロアにいらっしゃった方が亡くなる、先に逝ってしまわれる、ということですごく悲しみを抱えたり、そこからすごく気持ちが落っこちてしまう方ももちろんいらっしゃるのだけれど、落っこちても這い上がることができるのがこの高齢者の方たちなのよ、そんな経験いくらでもしてきたでしょ」って会長が。

僕らも「確かにそうだよな」って思って。

それに、気持ちが落ち込んでしまったときに、どう我々スタッフがその方をフォローし励ましていくかっていうのも僕たちの仕事だし、「これは隠してこそこそすることではないな」って。

 

偉そうなこといっぱい言ってしまいました。そんなにたいしたことはしていないですよ。

普段からの密なコミュニケーションが緊急時の意思疎通でも生きる

◆戸倉

知っているようで息子さんや娘さんが知らないことがすごく多いですよ。ご家族であってもタイミング。タイミングを逃さずに聞いていかないとなかなか死に関係するようなことは聞けないのだと思います。

そういう部分は、こちらで私たちが結構きちんと聞いてご家族ともお話しして。

 

◆鈴木

戸倉なんかは本当に普段からのコミュニケーションですね。例えば、面会に来られたご家族に、何もなくても必ず声をかけて。「今日はこうですね」「昨日こうでした。こういうことありましたね。」って話しています。

向こうも相談しやすい関係をすごく意識して作っているのだと思います。そういう中で、ご家族がちょっともらしたひと言を逃さない。何か変化があればそこでちょっと聞いていくようなかたちで、本当に普段からそういったちょっとしたことから話をしているので、そこはすごいなと思っています。

 

◆戸倉

追いかけますから。

出口から出てっちゃっても追いかけますから。「すいません。この間、お歳暮いただいちゃってすいません。」とか言いながら。

 

◆鈴木

緊急時の書類でそういう場合にどうするかを書面で交わしていても、実際そうなったときになると「延命を望まない」と仰っていたご家族が「いや、救急車呼んでくれ」「何とかして生かしてくれ」みたいに考えが変わることもあるので。

普段から話していると、そういった変化にも気が付きやすいし伝えてもらいやすい。やっぱりいつでもなんでも話せる環境とか関係性があれば、緊急時にもご家族が気持ちの変化や揺らぎを伝えてくれやすいと思うので。それで、フロアのスタッフがちょっと何かをきいた場合には、フロアから事務所にその話が降りてきて私たちの耳にも入ってくるようにしています。そういった機会にも常に話をする。

 

会長という存在

 

編集部:

お話をうかがっていますととても強烈に会長の存在を感じるのですが…。

 

◆戸倉

元々はコスモス1軒しかなかったのです。会長は当時そこで施設長で、その下でスタッフとして働いていた僕たちは直にこういった施設長の言葉を浴びながら育ちました。そういう運のいい世代なのです。

 

編集部:

それがちゃんと引き継がれているのですね。次世代に。

 

◆戸倉

そうですね。そのつもりです。

 

僕はこの仕事がすごく好きです

 

◆戸倉

看取る仕事って、あまり世間のイメージがいい仕事ではないと思うのですけれど、僕はこの仕事がすごく好きです。

「その人の人生の最期を一緒にいられることってすごいな」って思って。赤ちゃんが生まれる瞬間に立ち会える仕事も素敵なことかもしれないけれど、逆にこの最期を迎える瞬間に立ち会えるというのも素敵だなって。寂しいですけどね。寂しいけれども、同時に「これってすごい運命なのかな」って感じられるのです。

 

編集部:

人生の途中までがすごく幸せでも、最期亡くなる数カ月間というか、数週間というか、もしくは最後の1日だけであっても、そこが惨めな気持ちで終えてしまうっていうのはちょっと人生全体がつらい感じに思えてしまいますよね…

 

◆戸倉

終わりよければすべてよし。最期ぐらいは本当に幸せに過ごしてほしい。でもここで亡くなる方には、つらい顔をして亡くなる方は一人もいないです。みんな笑っていらっしゃいます。笑っていらしたり満足された穏やかな表情だったり…「いい顔してるね」って思います。

 

◆戸倉

スタッフもまたそれで最後の達成感というか、「みんなで頑張っていい最期を迎えてもらえたね」っていうそういう達成感を感じさせてもらっています。看取ったあとのカンファレンスというのも行うのです。その方に関わった方誰でも参加できるカンファレンスです。「どうだった?」「最期、関わってどうだった?」って訊ねると、「もっとこんなことやってあげたかったです」っていうような方もいるし、「もうやることやりました、十分です」っておっしゃる方もいる。でもそれが次に見送る方を支えていくための経験というか、勉強だし…。すごくいいですよ。その死後のカンファレンスという機会は。

 

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更新日:2016年04月15日


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