看取りを知る

在宅で看取る

家族は寄り添うことに専念する環境を作る

宅介護は本当に大変です。覚悟を決めて、介護が必要になった老親を面倒見ることを決めても、時間が経過するにつれて心と体の疲弊が増してきます。介護が始まってから看取りにまで要する時間は、平均で5年から6年といわれています。その期間、家族だけで面倒を見ることはほぼ不可能だと考えた方が良いでしょう。
テレビや新聞で、介護にまつわる悲しいニュースが報道されることが増えてきました。国は、介護が原因で仕事を辞める『介護離職』をゼロにする方針が示されていますが、年間14万人以上の人が介護を継続するために離職しています。退路を断って、家族のために介護に専念することは、尊いことですが、その想いを上回るくらいの苦痛を伴うのです。せっかく在宅介護を選択しても、最終的に虐待などの悲しい出来事が生まれるのは、どうにもつじつまの合わない無力感だけが残ります。在宅介護を継続していくためには、「1人で抱え込まない」という考え方に徹することです。

介護サービスを上手に使う

2000年に始まった介護保険制度は、介護を家族だけの問題として捉えるのではなく、社会全体でサポートしていこうという考え方から生まれました。家族だけで介護の行き届かない部分にいくつもの介護サービスが用意されています。24時間365日、家族だけで面倒を見ることは難しい状況であることを踏まえ、定期的に自宅を訪問してくれる訪問介護をはじめ、入浴やリハビリを在宅で提供するサービスや昼間の時間施設で預かることで、在宅介護から一時的に解放される時間を作ることも可能になっています。一定期間施設に短期入所することで、家族が休息できるショートステイサービスもあります。
こうしたサービスを利用することで、在宅介護の可能性は大いに広がってきます。しかし、家族に介護を必要としている人がいることを隠したいと考える人は依然としてかなりの数います。とくに、年老いた夫婦のいずれかが介護が必要になったケースで、介護する側が夫の場合はとくにその傾向が顕著になります。夫だけの力で妻の介護をすることはほぼ無理です。結果的に、共倒れになるケースも少なくありません。

在宅介護をはじめるとき、まず、介護サービスの利用を考えるようにしましょう。家族は、介護サービスを専門家の手にゆだね、愛情を注ぐポジションを確保してください。要介護者に寄り添い、サービスを活用して、できる限り長い時間、在宅で面倒が見られる環境づくりを考えていきましょう。

どこまで在宅介護を続けるのか

宅介護をはじめることになったら、どこまで続けるかを考えておく必要があります。酸素の吸入、経管栄養といった常時医療的な対応が必要になった場合、認知症の症状が重度になった場合など、在宅介護がきわめて難しくなる状況があります。それでも在宅医療の活用や介護サービスの利用によって在宅介護を全うする方もいますが、こうした状況になったとき、在宅介護にこだわることはあまり現実的ではないと言えます。
継続しようと強く思えば、看取りまで在宅でやり遂げることはできます。しかし、介護を必要な状態にある本人にとって、どういった選択をすることの方が本人のためになるかを考えてみましょう。住み慣れた我が家で、最期まで暮らし続けることができる。たしかに理想論ではあります。実際にそう言う環境が整備されればそれに超したことはありません。しかし現実に目を向ければ、介護サービスや在宅医療を使っても、その環境は専門の施設や病院に比べると医療面や生活介助の実務面においては劣ることの方が多いと思います。

在宅介護を全うすることよりも、どこまで在宅で面倒を見るのか。在宅介護をはじめた段階で、方向性を定めておくことお勧めします。世間の目をあまり気にする必要はありません。介護度が高くなれば介護する側の負荷も大きくなります。その負荷が限界を超えたときの方が怖いのです。「寝たきりの状態になって常に見守りが必要となったら」とか、「認知症の症状がひどくなったら」といった場合には介護施設に介護をゆだねる、といった目安を決めておいてください。

介護サービス事業者との連携、地域との交流をしておく

宅介護からの適切な離脱を実現できるかでは、「どれだけ周囲との関係性を構築しているか」が、ポイントになります。具体的には、介護サービスを利用している場合なら、サービス提供者との関係性やケアマネジャーとの関わりを良好に保っておくことが重要です。
介護サービスを提供する専門家は、在宅介護に一生懸命かかわっている家族をサポートしてあげたいという気持ちを強くもっています。同時に、その家族の限界点を第3者の立場から冷静に見極める目を持っています。とても頑張っているけれど、そろそろ限界が近づいていることは、彼らの目が一番正しく評価しているのです。
こうした専門家を味方にしておくことは、その後のサービス利用、在宅から施設への変更に際して大きな力になります。彼らに相談すれば、的確なアドバイスを受けることができます。この関係性を介護が始まってから常に意識しておくことが重要です。介護は、人間関係によって大きく左右されるものです。日頃の付き合いが、いざというときに役立ちます。
訪問介護サービスを提供している事業者の多くは、背後に、介護施設などのサービス事業所をもっています。家族がおかれている状況を正しく伝え、サポートを受ける関係性が生まれていれば、施設への入所に関しても情報、手続きなどの点で便宜を図ってもらえる可能性は高くなります。単なるサービス提供者ではなく、信頼できるパートナーになってもらえるような付き合いを心がけてください。

地域においても、自宅に介護が必要な肉親がいることをオープンにしておくことです。近所付き合いは希薄な時代ですが、それほど捨てたものではありません。助けが必要な家族の存在を知ってもらうことで、何かのときに助けになることもあります。私が知っている事例では、自宅の前に、「ただ今、介護中」という札を下げることによって、近隣の注意を引き、助けられた事があったケースもあります。家族だけで抱え込まない、周りの人たちも巻き込んで在宅介護を成功させてください。


大切なひとと考える『これからハンドブック』

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